台北の二二八記念館をじっくりと見回った後、記念館の女性スタッフの李秀華さんと連惠桃さんとしばらく話をしました。李さんは親が日本時代の生まれのようで、連さんは3年間日本に留学していたこともあり、どちらも日本へ親近感を持っている様子でした。

いくつか歴史の話になって、こんなことを話していました。「台湾は今とても複雑な状況で、その状況は変わりつつある。私の親世代の多くは日本人という意識だったわ。中国国民党と一緒に来た人々は自分のことを中国人だと考えていた。けれども、2世代、3世代と時代が進むごとに、自分を台湾人と考える世代が増えてきた。彼らは日本人でもなく、中国人でもなく、台湾人だと考えているのよ。」

台湾に詳しい方から聞いた話ですが、昔は、本省人(1945年の中国復帰前から台湾に住んでいた人々)と外省人(1945年の中国復帰から台湾に移り住んできた人々。)というアイデンティティの違いが明確にあったそうです。しかし、時代を経て、混血が進んだこともあり、日常生活では本省人と外省人の違いは意識されることは多くないそうです。本省人と外省人の話題は、選挙のときくらいにしか出てこないみたいです。

僕が話をしていたスタッフのご年輩の世代は台湾語が話せますが、今の若い人で台湾語を話せる人は少ないそうです。というのも学校で台湾語を教えるのは、あまり多くないからです。スペインでカタルーニャの独立を巡る激しい動きがありますが、言語と民族的なアイデンティティには深い繋がりがあります。カタルーニャで独立運動の背景には、カタルーニャ語やカタルーニャ文化という独自の文化に対する目覚めがあります。台湾は、今後どのような展開になっていくのでしょうか。

このように台湾のアイデンティティの問題は世代ごとに認識が変わっているようです。また、自身を中国人と思いきれない人々の多くには、国民党時代の圧政の記憶があります。また、彼らには日本と中国は戦争をしていたため、台湾へやってきた中国人から台湾の人々を戦争へ加担した敵だと蔑視された経験もあります。そして、台湾のアイデンティティ問題は、台湾に元々住んでいた原住民が加わったりするので、非常に複雑だそうです。

2014年の国政選挙で生まれた新しい政党の「時代力量」の話になりました。この政党は2014年のひまわり学生運動から派生して生まれました。時代力量には、メタルバンドのミュージシャンが林昶佐氏(フレディ・リム)がいます。そして、一緒に話していたスタッフさんが「林昶佐は、台湾の創設者になるわ!」と冗談交じりの笑顔で話していました。

スタッフさんとの話は、歴史や政治の話題が多くて、とても楽しかったです。どうやら彼女は台湾の独立には前向きのようでした。僕が台湾の憲法について触れて「今の台湾政府の憲法は、中華統一を目指していますよね?」と質問すると、彼女は「そうだわ。けれども今の憲法は国民党が与えたもので、私たちのものではない。だから、台湾が独立するためには、新しい憲法を作らないとダメね。」と話していました。

台湾で「日本人」というのは、台湾では特別の意味を持っているようです。「私たちの親の世代は、事実上、日本人だった。そして、当時は日本本土からたくさんの日本人がやって来て、台湾の人々と結婚して子供を産んだ。だから、台湾人には日本人の血が流れているの。」この言葉を聞いて、率直に不思議な気持ちになりました。僕のような若い世代にとって、台湾は外国のイメージしかなく、「親は日本人だった」と台湾人に言われると違和感を覚えます。けれども、これも歴史が生んだ事実です。台湾の未来には、日本も無関係ではないことを改めて認識しました。

台湾独立や帰属問題は、国際的には中国の内政問題です。けれども、台湾は日本の隣にありますし、歴史的な繋がりも深いです。なので、台湾に対して無関心ではいられないと感じました。最終的な結論は、台湾と中国の人々が決めるべき事柄ですが、二二八事件を学んだので、一つだけ憂う点があります。二二八事件は、統治者が変わる戦後の混乱期に発生した悲劇です。なので、同じように台湾の帰属を巡って状況が悪化し、多くの血が流れることだけでは避けてほしいと感じました。

その後、記念館の受付で話をしていた李さんと連さんと一緒にランチへ行きました。ありがたいことに、美味しいご飯をご馳走してもらいました。お陰様で、とても楽しい時間を過ごすことができました。

つづく。