憲法の観点に立てば、理想と現実のギャップ埋める作業とは、「権利や自由を育てる」ことでしょう。理念的なものを元に解決すべき課題を抱えている相手に向けて権利や自由を育て、届けてあげるのです。

憲法や法の分野は、創造性が求められる領域だと思います。なぜなら言葉によって制度を創造し、その制度を人々が活用していくからです。憲法とは、人類が幸せになるために作り出した道具だと思います。もし憲法とは全く別の概念をつくり、定着させるとしたら、それこそ途方も無い時間が必要になります。それは「車輪の再開発」という過ちでしょう。人類が長い時間をかけて磨き上げてきた道具を使わない手はありません。憲法に触れるたびに「あぁ〜、先人たちに感謝じゃ」という気持ちが溢れてきます。

憲法は「こんな仕組みがあったら、みんな幸せになるんじゃないの?」という発想があったように思います。僕たちは、先人たちが作り出した道具を受け継ぎ、上手く使いこなす技術が求められているのではないでしょうか。そんなふうに考えると、憲法とは、家や都市デザイン、システム開発などの分野に近い側面があるのではないかと思うわけです。

2018年2月23日に「暮らしと憲法 ~憲法を身近に感じるワークショップ~」というテーマでイベントを行いました。いつも以上に和やかな雰囲気で活発な意見が交わされました。今までにワークショップ形式で憲法を主体的に考えてもらうイベントをやってきましたが、今回のワークショップは、次の2点を意識しました。

①憲法の多様な側面を知ってもらう:憲法ミニ講座
②自分たちの暮らし目線で憲法や権利を考えてもらう:憲法ワークショップ

①の「憲法の多様な側面を知ってもらう」を意識した理由は、自分と憲法の接点を見つけて欲しかったからです。憲法を調べてみると「権力を縛るもの」という説明がなされます。確かにこの性質は憲法の重要な側面ではありますが、それだけが全ての側面ではありません。「権力を縛る」という話だけでは、そこから自分たちに結びつけて身近に感じることは難しいです。なので、憲法に対して、いろんな入り口を用意すれば、「おっ、この入り口なら入れそうだぞ!」と自分がいる場所から憲法に近づくことができるのではと考えました。

「100人いれば、100通りの憲法の捉え方がある。」こういうスタンスでワークショップに臨みました。憲法はきっと偉大なものなので、僕たちの多様性も受け入れてくれるだろうと、憲法に託してみました。

①の要素は、憲法ミニ講座として僕が30分ほど話をします。①の憲法ミニ講座は、②の憲法ワークショップに繋がる準備段階でもあります。

②の「自分たちの暮らし目線で憲法や権利を考えてもらう」は、今回のワークショップで新しく盛り込んだ視点です。今までにも憲法のワークショップを実施してきましたが、日本の社会で問題や課題を憲法によってどうやって解決するか?という観点でした。これは社会に軸を置いたやり方です。

けれども、今回のワークショップは自分を軸に憲法を考えてほしかったです。憲法には、いろんな権利や自由が書いてありますが、それらの権利や自由は、各人のライフスタイルや価値観によって重みや意味づけが変わってくるはずです。子供やお子さんがいる家庭では、教育の権利は大切ですし、バリバリ働く人であれば、労働の権利が大切です。そんなふうに自分の生活から、身近な権利や自由を選んでもらうという手法を導入してみました。「憲法ありきの自分ではなく、自分ありきの憲法でやってみよう」「権利や自由の利用者目線で憲法を考えよう」といった具合です。

なぜ僕が「憲法を主体的に考えてもらう」、「憲法を身近に考えてもらう」という視点を大切にしているのかというと、憲法という言葉の力を呼び起こしたいからです。憲法とは、言葉で作られたルールブックです。そのルールが社会に対して実行力を持つかどうかは、人々がその言葉に実感を持てるかどうかにかかっていると思います。

逆に、人々の実感が伴わないルールとは、言葉だけの飾りにすぎず、社会に対して何の効力も発揮できません。なので、少しでも憲法を身近に感じてくれる人が増えれば増える分だけ、憲法が力を持つことになります。憲法とは、みんなが豊かになるための道具なので、憲法が力を持ってくれれば、グルっと回って、みんなが豊かになると思っています。

こんな考えをながらワークショップの準備をしてました。そしてワークショップを実施しました。結果としては、とてもうまくいったと思います。また、そこから新しい課題が見えてきました。それは後ほど紹介します。

最初の憲法ミニ講座では、憲法の多様な側面を知ってもらうようにしました。憲法とは、「常識である」「国の紹介文である」「歌や詩である」「権利のカタログである」「生き物である」「社会のゴールである」など、いろんな観点を事例をもとにお話をしました。

参加者に「あなたにとっての憲法とは何ですか?」という問いかけも行いました。印象的だった回答は、「憲法は家宝である。家の奥にそっと大切にしまって置くもの。今は慌ただしい時代になったので、その家宝を表に出さなくてはならなくなった。」と。このような例えは、知られざる憲法の側面を掘り起こすことになります。また、「憲法とは、人類が大切にするべき権利が書かれている。」と、国家を超えて世界的なレベルで憲法を捉えている意見もありました。

23日の憲法ワークショップを実施した後に改めて考えたのですが、憲法を「物語」や「木」をモチーフにすると、より分かりやすくなるのではないかと思いました。例えば、イタリアの憲法を例にしてみます。

イタリアの憲法第1条には「労働に基礎を置いた民主共和国である」と高らかと宣言します。第2条には「人権」、第4条には「労働の権利」、第36条には「報酬や休暇の権利」が書かれています。憲法は法律文なので、少しとっつきにくいですが、想像力を働かせて、噛み砕くとこんな風に憲法が読めます。

イタリア人A:「俺たちの国は労働者を大切にする国造りをしてくぜ!(第1条)」
イタリアの民:「そうだそうだ!」
イタリア人B:「個人の権利っていうのも大切にしようぜ!(第2条)」
イタリアの民:「そうだそうだ!」
イタリアのA:「俺たちの国は、労働の権利をドンドン伸ばしていくぞ!(第4条)」
イタリアの民:「そうだそうだ!」
イタリアのB:「あ、労働権っていうのは何だか抽象的で分かりにくくないか…?」
イタリア人A:「じゃあ、もっと具体的に書けば良いんじゃないか?」
イタリア人B:「そうだな、それいけ報酬の権利!いでよ休暇の権利!(第36条)」
イタリア人A:「よっしゃ、それでこそイタリア共和国だ!」

この会話は完全に空想ですが、その憲法ができる過程でどんな議論があったのかを物語っぽくイメージすると親しみを持てるのではないでしょうか。憲法に書かれているそれぞれの権利や自由には、必ずそれが必要とされた時代背景や理由があるはずです。それは決して記号の羅列ではなく、人々の葛藤と努力の物語でしょう。僕たちは、その大きな物語の延長線上に生きています。

次に「木」のモチーフです。憲法には、いろんな権利や自由が書かれていますが、いろんなことを包括する抽象的なものもあれば、具体的なものもあります。文章で書かれていると、並列に考えてしまいますが、権利や自由は、構造化できると考えています。「木」を例にしてみましょう。

木の根っこに当たる部分は、「権利」「基本的人権」などの包括的な概念があります。その根っこから「労働権」のように少し具体的な権利や自由が伸びてきます。さらにその幹から枝葉にあたる、「給与の権利」「休む権利」などより具体的な権利や自由がニョキッと生えてきます。

もちろん「給与の権利」「休む権利」にあたる具体的な条文を書かずに、「労働権」などを解釈して適応させることはできますが、「解釈」という人為的なプロセスが必要になってしまいます。具体的な条文が書いてあったほうが、時代の解釈という影響を受けにくいでしょう。

少し前置きが長くなりましたが、ワークショップの中身を見ていきましょう。今回はワークショップをこのような流れで行いました。

まず①では世界の憲法の条文を見てもらいながら、「権利と自由のシャワー」を浴びてもらいます。そうなると自分の思考の枠が広がります。実際にやってみると「こんなのも憲法に書いてあるのか!?」という声が聞こえてきました。今回は、いろんな世界の憲法を読んでもらい、一人一つだけ特に気に入った条文を発表してもらいました。

次の②では、マイホームの設計を通して、自分が実現したいライフスタイルをイメージしてもらいました。どんな家を作るかは、その人が生活で求めていることが反映されると思ったからです。一つの例として僕はこんな具合に書きました。自分の知っている友人を何人か重ね合わせてつくりました。きっと現地に住まいを構えて仕事をしながら、その場所の人々と関わっていけたら喜びそうだなと思って書きました。


最後の③では、自分が実現したいライフスタイルに「〇〇の権利」「〇〇の自由」と名付けてもらいます。余裕のある人には、その権利や自由は現在の憲法にあるのか、解釈によって導けそうなのかもセットで考えてもらいました。僕が名付けた権利はこんな具合です。


その名も「周遊権」。世界を数カ国回る飛行機のチケットを「周遊券」と呼びますが、それをもじって名付けました。日本国憲法の第22条「居住移転の自由」と「職業選択の自由」が書いてありますが、その自由を今の時代に合わせて発展させたものと言えるかもしれません。交通の手段が発達し、2万円もあればアジアの国々に行くことができる時代なので、この後は複数の国をまたいだ権利や自由という概念が登場してくるかもしれません。

僕は、この「周遊権」をパッケージとして考えました。この権利を国の平和外交政策の一貫として考えました。他国に素敵な貢献をした市民を「市民親善大使」として任命し、日本国内で減税の対象にします。「海外に行き、その国の人々と友好関係を築くのが日本の安全保障に寄与する」ことを制度的に裏付けたものと言えます。現在は、テクノロジーの発達で少数の人数で国家に対して壊滅的なダメージを与えられる時代なので、「世界に日本のファンを増やす」という方向性でお金の使い方をするほうが合理的に思います。もちろん数年では効果は出ないと思いますが、100年くらい継続的に続ければきっと成果が現れるでしょう。

それでは、参加者からどんなアイディアが生まれたのかを見ていきましょう。


●マイホームとライフスタイル
・本棚充実
・太極拳ができるスペース(時にライブやれる)
・ソーラー、雨水などなるべく使って持続可能な生活

●名付けた権利
ベイシック・スペース権(持続可能な生活を義務付ける)

●桐山のコメント
この方は、太極拳をやっており、ある程度の広さを確保できる部屋が欲しいと話していました。そこから、一人一人の収入が保障されるベーシックインカムのように、最低限度の部屋の広さを保障したベーシック・スペースという権利があれば良いのでは?というアイディアでした。


●マイホームとライフスタイル
・オフグリッド エネルギー自立した家
・外で火を使えるゆったりとした空間
・人の出入りがやすい

●名付けた権利
何とかなるさ権

●桐山のコメント
この方はパートナーがリストラにされた自分の経験から自立ができる暮らしを望んでいました。僕が感じたところでは、この方が発明した「何とかなるさ権」とは、お金がなければ生活できないという社会的な不安から解放されるための大切な意識であるように思いました。


●マイホームとライフスタイル
・本が多く置ける部屋と多くの人が集まれる部屋が併設されている。大きな台所のある家。
・比較的地域の範囲で仕事ができる
・時々、週1回位は、皆で考えてイベント開く

●名付けた権利
仕事場の近くに住める権利(職住接近権)

●桐山のコメント
この方は、家の広さだけではなく、職場の近くにあることを重視していました。ドイツで仕事をした時は家から近くに仕事場があったので、とても生活がしやすかったそうです。労働時間が8時間でも通勤に何時間もかけるのはおかしいのではないかという問題定期もしていました。また、周り「それって職住接近権ですね」との合いの手がありました。


●マイホームとライフスタイル
・遊牧民のように動物たちとくらす
・草の根のたまり場
・自然豊かな土地で田んぼと畑

●名付けた権利
・遊牧の権利=旅の費用は無料
・市民税を払わなくて良い権利=町へ払う
・生きているだけで収入がもらえる権利=地球に生まれてきたごほうび

●桐山のコメント
この方はいろんな経験があるようで、創造性を発揮させていました。昔は、村の代表者に旅をさせるためにみんなで費用を工面するという話があったので、旅によって新しい知識や人の繋がりをその地域にもたらしてくれるのであれば、「旅の費用は無料」という考えは、筋が通っているかもしれません。


●マイホームとライフスタイル
・好きな時に好きな所へ行って住む
・自給自足の生活

●名付けた権利
浮遊権

●桐山のコメント
この方は僕の意見に影響を受けたと言っていましたが、その後話を聞くと、中国語を勉強しており、よく海外へ旅行していると話していました。もともと感覚が近かったのかもしれません。見せてもらった中国の写真はとても綺麗でした。


●マイホームとライフスタイル
・共同のキッチンとリビングがある家
・毎日みんなでつくって、みんなで食べる
・孤食からの解放

●名付けた権利
共食権(公食権)
家庭を持つ、持たないに関わらず食を共にする権利

●桐山のコメント
重要な視点だと思います。食に関する世界の憲法を調べた時に自分たちが食べる「食品」に関する記述は、ありましたが、自分たち食をする「環境や状況」に視点を当てる条文は見つかりませんでした。大人や高齢者の孤立化が進んでいる社会事情もあり、「子ども食堂」だけではなく、「大人食堂」があっても良いのではという意見を持っていました。


●マイホームとライフスタイル
・にゃん(ネコ)が楽しくくらしてるあいだにコスタリカと東アジアに行かれるめんどうをみてくれる家
・世界のいろんな文化の違う人とお友達になる
・おそうじしてお料理も作ってくれる家、おひるねしてくらせる家

●名付けた権利
にゃんが幸せにくらせる権利
動物の尊厳を守る権利

●桐山のコメント
参考しようとして用意したインド政府がイルカを人として認めるニュースに触発され、動物の尊厳をアイディアとして出してくれました。スイスの憲法には、動物愛護に関する条文があります。ただ捕鯨などの文化的な衝突も起こるという難しい論点も提示してくれました。


●マイホームとライフスタイル
・八ヶ岳南麓の甲斐駒が見える林の中のログハウス
・晴耕雨読
・週に一度友人が集まり飲みながら語る

●名付けた権利
山梨権(究極の晩年)

●桐山のコメント
この方は多くの場所を転々としてきた人生で、フランスなどの海外の滞在経験もありました。そして現在は落ち着ける場所を探しているそうです。ライフステージによって求める住環境は大きく変わってきます。「山梨権」の命名はとても素晴らしく、会場がドッと笑いに包まれました。

ワークショップをやった感想は次の2点です。
①参加者のエピソードを踏まえて、より具体的に憲法や権利を考えることができた。
②最終的には「生存権」に行き着くのに、それが達成されていない憲法と現実のギャップを認識できた。

①については、今回のワークショップの狙い通りだったと思います。「憲法ありきの自分ではなく、自分ありきの憲法」や「権利や自由を利用者目線で考える」というポイントです。

②については、①の副産物と言えます。より具体的に考えてきただけに、現実の問題が浮かび上がってきます。今回のワークショップは様々な新しい権利が提唱されましたが、その裏には問題や課題を抱えています。提唱された新しい権利が生まれた社会課題を探ると多くが「都市問題」が原因となっていることに気づきます。「住居の狭さ」は人口が集中する都市部に共通するものでしょうし、「孤立」「職場の近さ」などはコミュニティの崩壊に関係する問題です。

理想と現実のギャップはいろんなシーンで悩まされます。そこで僕たちは、理想と現実のギャップをどうやって埋めていくのかを考えていかなければなりません。もちろんお金と時間という制限があります。けれども知恵をフル活用すれば、きっと解決できるはずです。

憲法の観点に立てば、理想と現実のギャップ埋める作業とは、「権利や自由を育てる」ことでしょう。理念的なものを元に解決すべき課題を抱えている相手に対して権利や自由を育て、届けてあげるのです。

「理想と現実のギャップ」とは、ネガティブな見方ではないでしょうか。逆の観点から言えば「創造性を発揮できる隙間や可能性」とポジティブな見方に変えてみませんか。

つづく。