2018年4月14日午前10時(日本時間)アメリカがシリアへの軍事攻撃を決定しました。私はアメリカの決定に反対します。日本政府にはアメリカへの軍事攻撃に参加せず、シリア人のために人道的な手段での問題解決を求めます。

この文章は、シリアへの理解を広げるための「コンフリクト・キッチン」という友人の企画へ寄稿したものです。コンフリクト・キッチンとは、コンフリクト(紛争)地域の料理を食べることで、その国の文化や歴史に興味を持ち、話題にすることを目的にする取り組みです。

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シリアについて書こうとするのは、あまり気持ちが乗らなかった。なぜなら、僕にとってシリアは宙ぶらりんにしておきたいテーマであったからだ。いろいろな縁があって、今こうして書いている。そろそろ記憶の棚卸しが必要な時期なのだと思った。当時の曖昧な記憶を手繰り寄せて、書きながら記憶と気持ちを整理している。

僕がシリアを訪れたのは、2011年3月からの約1ヶ月という短い期間である。僕は大学時代に少しだけアラビヤ語を少し勉強していた。そして大学のプログラムで中東の現地研修があり、その年の訪問地がシリアであった。その当時は、シリア情勢が悪化しているというニュースが日本でも話題になっていた。しかし、現地の情報から訪問先は安全であるとの判断があり、大きな波乱が始まりつつあるシリアに僕らは向かった。

短い期間だったけれどもシリアに行った時の思い出はいろいろある。一つを取り上げてみよう。中東研修では、シリアの大学生にアラビヤ語の名前を付けてもらう習慣があった。大学生の中に名付けの名人がいて、僕のアラビヤ語名も彼に相談した。「名前は?」と聞かれたので「桐山洋平です」と答えると、名前の意味を聞いてきた。僕は「桐山」の「桐」の字を「タンスによく使われる。強い。硬い。」と辞書を片手に拙いアラビヤ語で説明した。名付けの名人は、そこから連想して「アブドゥ・ジャッバール」という名前を僕に与えてくれた。

この名前は、俳優みたいに華のある名前だそうだ。この名前を日本語名にすると「神の奴隷」という意味になる。「奴隷」というと日本語では、かなり刺激的な言葉に感じるが、「奴隷」を意味する「アブドゥ」は、一般的な名前らしい。イスラーム教徒は唯一神のアッラーに帰依をする。だから、神の奴隷であることは、彼らにとっては望ましいことである。

もう少し説明を加えると、神の奴隷であることは、神以外の奴隷になってはいけないことを意味する。だから、人々を混乱させる誤ったイデオロギーや偏屈な考え、強い出世欲や承認欲求などの自らの強欲、みんなが欲しがるお金など、こうしたものから自分が支配されないように心がけなくてはいけない。彼らの言葉を借りれば、神の奴隷であることは、限りなく自由の状態と言える。

僕がシリアにいる時に、日本で東日本大震災が起こった。当時のシリアのテレビでは、福島の原子力発電所が爆発する映像が何度も何度も流れていた。現地の大学生らと共にシリアの街へ出かけると、道行く人々から「フクシマ、フクシマ」と心配と同情の声を投げかけてくれた。「日本は、ヒロシマとフクシマを辛い経験している。とても悲しいことだ。」彼らは、こんな風に優しく寄り添ってくれた。あのとき優しい言葉をくれた名前も知らない人々は、今は生きているのだろうか。

シリアへ訪問してから歳月が流れた。もう6年前のことである。アラビヤ語の学習はやめてしまったので、今はほとんど覚えていない。Facebookを開くと、友達が美味しそうな料理の写真や楽しい旅行の写真が流れてくる。このような日常のなかに、時々シリアに関するニュースが流れてくる。そして、僕のアラビヤ語の名付け親からの投稿もある。たまに彼が投稿するシリアの空爆の映像や子どもの死体の写真が僕の目に飛び込んでくる。リアルタイムの空爆の映像も流れてくる。僕はスマートフォンの薄い画面を通じて、シリアの現実を見る。Facebook上でシリアの悲惨なニュースを見るのは辛いことだけれども、その投稿から彼がまだ生きていることを知る。悲しみと喜びが同時に押し寄せてくる。これは戦争や紛争の一面であると思う。

シリアがなぜこんな状況になってしまったのかにはとても関心があるけれども、本格的に調べようとする気がなかなか起こってこない。情報元のメディアを変えれば、アサド政権は極悪の独裁者にもなれば、正義の味方にもなる。また、シリアが石油利権の争いに巻き込まれているという報道もある。状況が複雑すぎて、もはや何が真実なのか分からない。ただ僕は誰が正義であるか、誰が悪であるかを決めるよりも、一刻も早くシリアの人々に平穏な日常が戻って来ることを祈っている。僕にとってのシリアの人々は、戦争や紛争による不幸な民ではなく、心優しく豊かな民として記憶されていることを最後に明記しておきたい。

2017年4月 桐山洋平

ダマスカスのウマイヤド・モスク。平和で穏やかな空間が広がる。2011年3月14日撮影。

ダマスカスの市場。異国情緒が漂いエネルギーに満ち溢れていた。2011年3月3日撮影。

パルミラ遺跡。シリアの代表的な歴史遺産。2011年3月13日撮影。